からだの痛み

 現在、主流となっている疼痛のモデルは、体を傷つけた場合のような侵害受容性疼痛と、いわゆる神経痛である神経障害性疼痛からなる上の図のようなものです。両方の要素がはいったものは、混合性疼痛と呼ばれています。これに心因性疼痛が加わります。

 ところが、臨床上これだけでは正しい診断に結びつけるのは難しいのです。そこで、これをもとに修正を加えたモデルを考えました。これはまだ、学会報告もおこなわず、一般的には認められたものではありませんが、実際の診断・治療には役立つものだと思います。それが次の図に示すものです。

 ここで、構築性障害というのは骨・関節(靭帯も含む)の障害のことです。腰痛の多くは筋筋膜性障害によるものであるし、関節の痛みは構築性障害と筋筋膜性障害の両方の要素があります。構築性障害と筋筋膜性障害による疼痛を併せて侵害受容性疼痛ということが言えるでしょう。これらの障害に加えて、各部位での炎症(リウマチや感染など)が痛みに関係します。このように考えていけば、体の痛みがどうして起こっているのか、その痛みを和らげるにはどうしたらよいかが見えてきます。ただし、それに加えて心理社会的要因が加わるので、実際の治療は一筋縄ではいかないこともあります。

 構築性障害による痛みには従来からあるロキソニンなどの痛み止めを、筋筋膜性障害による痛みにはこれにビタミンB1を追加することがあります。ただし、この類の痛み止めは胃を痛めたり、腎臓に負担がかかったりする場合があるので、長期間服用するのは良くありません。また、神経障害性疼痛にはリリカやタリージェといった薬を主に用います。循環障害に関しては、動脈性のものであれば血管拡張剤を、静脈性のものであれば桂枝茯苓丸などの漢方薬(駆お血剤)を使用します。もちろん、これらの複数の原因があれば、必要に応じて複数処方したりします。なお、慢性の腰痛や変形性関節症などに対しては、デュロキセチン(サインバルタ)という薬が著効を示す場合があります。内服薬以外であれば、症状に応じて関節注射や神経ブロックにより直接患部の治療をおこないます。

 そしてなによりも大切なのは、痛みを和らげたうえで体を動かすこと。これが最良の治療法であることを、心に留めて置きましょう。

よくある質問(FAQ) -1-

Q1:痛み止めの注射は、一時的に痛みを和らげるだけなのではないのですか?

A1:痛む部分に注射をすると、疼痛の悪循環となる原因(血流低下や疼痛反射)を減らすことができます。したがって、それまでとは違った体の状態を作り出し、治癒力を高めます。ただ、長い経過で体の部分に回復力が無くなってしまった場合(たとえば筋肉が変性して固くなった場合)や、同じ部分に繰り返して疼痛の原因となる作用が加わる場合(たとえば重労働)は、そういった注射の効果が十分に得られないこともあります。


Q2:痛み止めを飲むのはできるだけ我慢したほうが良いのですか?

A2:痛みはあまり我慢しないほうが良いでしょう。痛みを我慢すると痛みの悪循環を生じて、かえって長引くということもあります。たとえば、痛み止めで痛みが和らいでいる間に体を動かすほうが、我慢するより回復が早いのです。また、痛み止めの中には「消炎鎮痛剤」と言って「炎症を抑える」効果を持つものがあります。それを使えば、たとえば捻挫などでは痛みを止めるだけでなく、治癒を早めます。それぞれの薬の効果は医師にご確認下さい。